「資産はあるのに、母を施設に入所させられない…」認知症による実家凍結を防ぐ「家族信託」の本当の強みと、30年近くの現場から見えた誠実な現実
司法書士として30年近く、数多くのご家族の財産管理や相続の現場に立ち会ってきました。
近年、認知症対策の画期的な手法としてテレビや雑誌でもよく取り上げられるようになったのが「家族信託」です。
しかし、ネットに溢れるきらびやかな宣伝文句と、私たち実務家が見つめる「現場のリアル」には、少しギャップがあります。家族信託という「備え」がもたらす本当のメリットと、実際に手続きを進める上での厳しい絶対条件について、嘘偽りのない本音をお伝えします。
不動産が処分できなければ、いい施設に入れない現実
多くの人が「うちには大した財産はないから」「親はある程度資産を持っているから大丈夫」と考えがちです。しかし、ここに大きな落とし穴があります。
実務の中でよくお会いするのは、「資産(実家や土地)はあるけれど、手元の預貯金はそれほど多くない」というご家族です。
親御様に介護必要になり、手厚いケアが受けられる「良い老人ホーム」に入所させようとすると、数百万円から一千万円単位の入所一時金や、高額な月額費用が必要になります。
「それなら、親が住んでいた実家を売却して、その資金に充てよう」
ご家族がそう考えたときには、すでに親御様の認知症が進行しており、売却手続き(意思表示)ができなくなっているケースが非常に多いのです。
どんなに何億円もの価値がある不動産を持っていたとしても、認知症によって名義人の意思確認ができなくなれば、不動産は完全に「凍結」されます。
結果として、**「資産はあるのに、親を良い施設に入れてあげられない」「子どもたちが生活費を削って、親の施設代を仕送りする」**という、極めて過酷な経済的・精神的負担が生じてしまうのです。
もっと早くやっておけば…」後悔の声が絶えない、後見制度の硬直性と不便さ
「認知症になってから対策を考えればいい」
そう思われているなら、非常に危険です。一度でも親御様の認知症が進行し、判断能力が不十分になってしまえば、もう家族信託を結ぶことは絶対にできません。 信託契約には「本人の確かな意思」が必要だからです。
認知症になった後に残された唯一の選択肢は、国が用意した「成年後見制度(法定後見)」を利用することだけです。しかし、この制度は実務上、非常に「硬直的で不便だ」という不満や後悔の声が極めて多いのが現実です。
なぜ、後見制度はこれほど不便だと言われるのでしょうか? 理由は主に3つあります。
1. 家庭裁判所の厳しい制限:実家を売るのも一苦労
後見人は、本人の財産を「維持・保全」することが最優先の任務です。そのため、本人の自宅を売却して施設費用を作りたいと思っても、家庭裁判所の事前の許可が不可欠です。本人の手元に他の預貯金が少しでもあると、「自宅を今売る必要はない」と判断され、売却が認められないこともあります。
2. 財産の「積極的な活用」や「家族への贈与」は一切できない
「親の財産を孫の教育資金に使いたい」「生前贈与で相続税対策をしたい」といった、ご家族全体のメリットになるお金の使い方は、後見制度では原則すべて禁止されます。本人の生活に直接関係のない支出は、1円たりとも認められません。
3. 第三者の専門家が選ばれ、毎月数万円の費用が「一生涯」続く
多くの場合、家族ではなく弁護士や司法書士などの専門家が裁判所から後見人に選ばれます。そうなると、毎月2万〜6万円程度の「後見人報酬」が、親御様が亡くなるまで**毎月、一生涯払い続けなければなりません。これが何年も続くと、ご家族にとって想像以上の財政的負担になります。しかも、一度始まった後見は、途中でやめることができません。
お元気なうちに「家族信託」を組んでいれば、こうした窮屈な思いをすることなく、信頼できるお子様自身の判断で、いつでも実家を売却し、自由に親御様のために財産を活用できます。
まさに「認知症前にしかできない家族信託」と「認知症後に引き受けるしかない後見制度」には、天と地の差があるのです。
実際に使った実績はまだなくても、もたらされる「圧倒的な安心感」
ここで正直なお話をさせてください。
家族信託は、日本では比較的新しい制度です。そのため、私自身、これまでに家族信託の設計・組成を数多く手掛けてきましたが、実は「親御様が認知症になり、実際に信託契約に基づいてお子様が不動産を売却した」という“最終的な効果を発揮した事例”は、当事務所でもまだありません。
しかし、信託を組まれたご家族は、異口同音にこうおっしゃいます。
「これで、もしお母さんに万が一のことがあっても、私たちが路頭に迷うことはない。本当に安心しました」
家族信託とは、いわば「一生物の、非常に強力なお守り」です。
実際にそのお守り(売却手続き)を使う日が来ないのが一番ですが、「いざとなれば、いつでも子どもたちの判断で不動産を換金し、お母さんの介護費用に充てられる」という**確実な備えがあること自体が、ご家族の毎日の不安を劇的に解消し、穏やかな暮らしをもたらしている**のです。
相続人全員の協力がなければ、私はお引き受けしません
家族信託は非常に自由度が高く便利な制度ですが、だからこそ超えなければならない、プロとして譲れない一線があります。
それは、「相続人となる家族全員が、この信託に合意し、協力してくれること」です。
家族信託は、文字通り「家族の信頼」があって初めて成り立つ制度です。
例えば、お母さんの財産をお子さんの一人(長男など)に託すという設計をする場合、他のきょうだい(長女や次男など)に内緒で進めたり、一人でも「長男が財産を独り占めするつもりではないか」と反対していたりする状況では、絶対にうまくいきません。後々の重大な親族トラブルの火種になるだけです。
ですから当事務所では、家族信託のご相談を受けた際、必ず「相続人全員に話を共有し、納得してもらっているか」を確認します。
もし、一人でも反対している人や不信感を持っている人がいる場合は、どれだけビジネスとして売上が立つとしても、私は家族信託の手続きをお引き受けしません。それはプロとしての誠実さであり、ご家族の将来を本当に守るための責任の取り方です。
三井住友信託銀行などの金融機関とのシームレスな連携
家族信託を組む際、信託されたお金を管理するための「信託口口座(しんたくぐちこうざ)」を銀行で開設する必要があります。
現在、この家族信託の口座開設や制度への取り組みにおいて、もっとも先進的で実績があるのが三井住友信託銀行です。しかし、非常に高いセキュリティと厳格な審査を行っているため、一般 of 個人の方が直接窓口に行っても、原則として口座開設の手続きを受け付けてくれません。
金融機関側も、「プロの司法書士(士業)が間に立ち、法的に不備のない完璧な信託契約書を作成し、窓口(エージェント)としてサポートしていること」を大前提としています。
30年近くの信頼と実績を持つ当事務所は、こうした大手信託銀行をはじめとする金融機関との強固な連携体制を整えています。専門知識を持った司法書士が窓口となることで、銀行側の審査も極めてスムーズに進み、安心して信託口口座の開設まで完了させることができます。
家族信託は、ただ「契約書を作れば終わり」というものではありません。そこには、ご家族のこれまでの歴史、人間関係、そして将来への想いがすべて詰まっています。
私たちは、流行りの制度だからと安易に家族信託を勧めることはありません。
ヒアリングを重ねた結果、「あなたのきょうだい関係であれば、信託ではなく、成年後見や遺言の組み合わせの方が絶対に安全です」と判断した場合は、それを正直にお伝えします。
「親が認知症になる前に、実家や将来の介護資金のことで備えをしておきたい」
そう思われたら、まずは現状の家族関係を整理し、何がベストな選択肢なのかを一緒に考えることから始めましょう。30年近く培った経験をもって、あなたのご家族にとって「本当に意味のあるお守り」をご提案いたします。

